2015年11月15日(Sun)【短編『鮮血への一撃 』１０ キュートな恋人】
「…………！！！！！！」
リミッドの瞼はイッパイに開いた。翠の眼球は光彩を放つ。ああほら。やっぱCatだ。
（猫って可愛いしな。なかなか気の効いた比喩だぜ）
ところが
「なあに！？ それ！！ 信じらんない！！ 信じらんないッ！！！」
頬を最高潮に真っ赤にし、リミッドはカン高く怒鳴り散らした。あれ？
（おかしいな。良い喩えだと思ったのに）
まぁいいか。怒るカオも可愛いし。と、おれはキィキィ喚く『赤』を眺めながら呟いた。
「ありえない！ 信じられないッ！！ クラウドのバカ！！ いじわる！！！」
しかし、さすがに喧しくて敵わない、おれは両手で耳を遮り、後ずさる。
「バカってなんだよ。こっちこそだよ、バカ。似てるのを似てるっつって何が悪いんだ。アメショ」
「そっ、そーじゃなくて！ なんで！？ 僕はキミを褒めたのにどうしてキミは僕をけなすの！？」
「貶めちゃねえよ。アメショ可愛いじゃねえか」
「！！」
と、リミッドは荒ぐ声を収めた。すー、はー、と深呼吸をし、半歩、おれへ歩み寄る。
「そう、それだよ、クラウド！」
「なにが」
「僕を間近に見てさ。感想！」
「アメショ」
「そのあと！」
「……可愛い」
「そう！ それ！！」
きゃっ、とリミッドは黄色い嬌声を上げた。「もう１回言って！」と手指を組んで最接近してきた。
おれはどうにか踏ん張った。ここで逃げると今度こそマジに猟奇的展開になる、とかなんとか、おそらく天の啓示だ。ああ、たぶん。
「か。可愛いぜ。リド」
「うふふ！ でしょ！ でしょ！ んもう、言うの遅～い。じれったい。僕を好きになるダーリンはみんな必ず『可愛い』って言うのが決まりなのに」
それ、確実にてめえで決めた、てめえの規定だろ。
「でもでも、クラウドの焦らしテクはなかなかだったよ。『東洋的な顔』だのアメショだの、肝心の『可愛い』を後ろに回す巧みな対話テク！ 僕、すっかり根負けしておねだりしちゃったしぃー」
いや、単に気の利いた文句が浮かばなかったんだ、ってんだ。ああそう。『かわいい』『きれい』と直球を投げたら御満悦になんのかよおまえは。攻略ヌルすぎだろバカ。
（ったく。ねだられて『可愛い』と言わされるってのは。気にくわねえ……）
「うふふ。クラウドも今日から僕のダーリンだね」
（ーー！！）
『も』、と足された台詞におれの左腕が伸びる。かろやかに元きた道に向かいだすリミッドの、その肩を掴む。
「おい。おれの学力は中等科を超えてる。ティーチャのお墨つきだ。リド。宿題の白紙ページはおれが埋める。テストのヤマもおれが予測してやる」
「クラウド」
「だから。そんな安いギブアンドテイクで、キスをしたりするな」
「クラウド……」
おれに肩を抱かれながら、赤い悪魔はハニかんだ。
「オーケー。キミにすべて売る。僕の恥ずかしいところも、みんなみんなあげる」
「歌でいいよ、歌で。イエスを詰る禁止ソングで構わねえ。おねだり１回につきワンフレーズ唄え」
「なあにソレ。うふふ。僕ばかりがお得じゃない。優しいね、クラウドは」
『大好き』と飾られたが、おれは相槌代わりの口笛で応えた。
ああ厄介な責を引き受けちまった、しかし今のところこの奔放なバカを繋ぐ綱はおれしかいない。仕方ない。仕方ない。これは神が託した試練なんだ。おれのエクレシアから破壊的信者を輩出したら一大事だろう？ だからおれはこいつを留める。神と世界の尊さを説き、その歪んだスピリットを矯正してやる。
何年かかるかしれねえが。その間におれがコイツに本気で恋堕ちする可能性もあるが。
（実際、キュートだ、とは本気で思ったんだしな）
「うふふ？ なあに、なにか言った？」
「いいや。なにも」
恋、か。おれが本気でコイツと恋に堕ちたならーー
「……ふん。まぁ、そうなったら、それこそ生涯かけて矯正してくだけだ。ヌルいミッションだな」
「ねえ、なあに？ 絶対なにか言ってるよね？ ねえってばぁ、クラウドぉ」
「なんでもねえよ」
黙ってろバカ。殴るぞ。と締めたらリミッドは「いじわる」とスネて微笑した。
《続く》
―――――
引き続き、バカップル展開です(笑)。
いやあ、蔵人ってホント早熟だなぁｗ しかもコレ、この時点の蔵人は『１１歳』というのはウソで、さらに２コ下なんですよｗ（当の蔵人は知りません、彼を教会に託した卯堂千里がマルカートマペットの目を誤魔化すために詐称したという…）
つまり９歳ですｗｗｗ
ええっ、うわあ、うそぉ、いやいや、さすがは未来のナンパ探偵・結城蔵人！といった感じですがぁｗｗｗ
20:42:39
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