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お絵かき創作雑記
2015年10月25日(Sun)
【寺嶋神琴 独白SS『こころを振るわせる“音”は』】
寺嶋神琴 独白SS『こころを振るわせる“音”は』

 鐘が鳴る。

 聖日とされる日曜の晴れた朝。昼の間近に鳴る鐘の音。オレは片手を扇いで嘆く。

「ははぁ。なんや、まーたキリストかいな。うっとおしい」

 銃は魔力や。あれは革命やし、それを生み出したアメリカっちゅう国には本気で敬意を表したなる。

「せやけど、宗教が濃いぃのはアカン。ついてけへん」

 その国の宗教を知るは、その国の民を知るに繋がる。わかっとる。せやし学んだが、やはり付いていけへん。

「しゃあないにゃあ。エエ風が入っとったのに」

 愚痴りつつ窓を閉めた。ここは所属機関が割り当てた居住区、まあまあ中流のホテルなんやが、でかい教会が近い、っちゅうとこはマイナスポイントやね。などと大声では吐けん、お付きのボーイもクリスチャンのよおやし。

「まぁ、信心深い、っちゅうたらオレんちも『武士の魂ガー、神ガー』とかゆうとる、たいがいオカシイ家やったけども」

 日本の最北端や。葛西、っちゅう、生粋の武家がありましてん。オレの寺嶋はそこの眷属でしてなぁ。代々が傍若無人な葛西の主人にな、頑張ってついとっとりましてなぁ。

「なんやろ。血ィのなせるワザなんかなぁ。葛西の誰に仕えても、どないなワガママゆわれても。それが楽しかったし、心地よかった」

 脳裏に浮かぶ。
 漆黒のロングヘアの侍が。かれの妻、麗しき茶髪の花嫁が。その血を継ぎし、茶髪の美しき侍が――

(王善師範。紫乃師範代。善一郎……)


 初恋、だったのだろう。梶原紫乃。オレは幼き日、葛西王善より早く彼女と出逢い。恋をした。

(その出逢いの件については、紫乃はんは覚えてなかったようや)

 舞台はハワイやった。紫乃はんは迷い子のオレの手を引き、サーカスへ連れてってくれた。

『道化はカッコいいんだぜ、ぼうず』
『はあ。ケッタイなカッコで、みんなの笑いもんになるのがカッコええんですか』
『ばかやろう。じゃあ、あの道化が周りに踏まれても蹴られても笑い、笑ったあとに、ほら、通ったガキがニッコリとして手を振ったろうが』

 紫乃はんの澄んだ声が、ひとことが、オレの目線をストリートに向けた。ボロボロの服を着た、オレと年の変わらぬガキが。こちらを見つめ、ぎこちなく笑う。

(…………!!!)

 衝撃やった。指摘されて初めて気づいた。このストリートに。オレと同い年の、けれど、オレと比べくもなき、貧困に喘ぐ子供がいる。

『なぁ、関西弁のぼうず。おめえ、この光景を覚えておけよ』
『姉ちゃん……』
『立派なオトナになれ。こういう、勉強をしてえだろうに出来ねえ子供たちのために。ちょっとでいい、素敵な兄ちゃんになれよ』

 わたしは素敵な姉ちゃんを目指すから。そう言った凛々しい横顔は、いまも忘れられない。

「せやし。善一郎の。ええ兄ちゃんを目指そおとしましたよ。あのコにね。あなたの意志を全て託そおと……」

 そこで下唇を噛む。理由は易い、善一郎に意志を託せなかったからや。

(褪せたんですよ。急に。オレを育んでくれた葛西、その全てが。いきなり褪せたんです、オレの心の……)

 こころの、どこかから。

「ふふ。ヒッヒヒ……」

 空笑うしかない。なぜ? わかっとるからや。オレを育んでくれた全てが色褪せた理由、それは、オレの脳の『なにか』が要因だと。わかっとる。確実に。

(そして、いまは。今の医療技術では、この症状が打開できへんこともわかっとる……)

 窓を塞げど冒しよる鐘の音に目を走らせて舌をうつ。クッソふざけんなや、キリスト・イエス。おまえはなんや。この切羽詰まった可哀想なオレの脳ひとつ、おまえ。救えへんやないの。

「Mr.ミコト、エアメールです」

 苛立つ脳に耳先に、何やらの情報が届く。なんや。まあ、どないな出来事が舞い込もうとオレの足は揺らがんやろう。たとえ身内の不遇が伝わったとしても。揺らがない。

(なぜか? オレの脳は。身内を悪魔と見紛う、悪夢のようなビョーキだからやよ)

 そんな脳でも、『子ども』に関わる要請ならば内容は問わず頷きはする。目の前に在ったなら、オレはその子を全力で笑わせてやるだろう。

(子供は。守る。守らなければ)

 走るんや。走りたく、なる。ああ。注いでくれた、あなたの助言が

『ちょっとでいい。素敵な兄ちゃんになれよ』

助言にオレは、走りたくなる。なりたい。あなたの目に叶いたい。あなたは死んでいる。けれど、なお。

(紫乃はん。紫乃はん。出てきてくれ。クソ、クッソ……)

 ときおり起こる衝動と迷いの瞬間、オレは必ず、紫乃、あなたを想い描く。亡きあなたを求めてしまう。助言をくださいと。いいや、ただの叱咤でもいい。なにか、後押しするひとことを、と。

(生きとる誰かには頼れへん。王善師範も故郷の兄貴も、だれひとりオレの心、脳みそに、響く言葉は与えられへん)

 なぜか。“生きている”からや。

(ヒヒヒ……。生きとるから、彼らの言葉は響かない? なんやそれ。我ながらカオスな理屈やが。せやけど、そお解説するしかないし)

 エアメールの封を解きながら、オレは懐かしい情景を脳に巡らせる。こころを優しくしてくれる術は、現実には無い。記憶のなかだけに存在している。
 姉ちゃん。あなたと歩いた街角。華やかな路地の片隅にあった、薄汚れたガキの群れ。

「ミスター?」
「手紙は夜読むわ。ジャンクフード食いに行ってきますぅ。戸締りよろしゅう」

 ボーイに後を任せて出歩く遊歩道。教会に施しを求め行く薄ぼんやりとした家族とすれ違う。痩せ細ったガキもおぼつかぬ足取りでオレの横を過ぎる。それを確認するたび、オレのなかに火種が燻る。

(子どもは、救わなければ。いつでも、笑っててもらいたい……)

 火種の燻りと共に、聴こえる。どんな賛美歌にも勝る、女神の声が。

『ちょっとでいい。素敵な兄ちゃんになれよ』

 鮮明な声や。亡きあなたの声だけが、この心の弦を微かに振るわせる。
 震えるごとに、オレの瞳にかかる霞は、靄は、


曇っていったのか?

それとも

冴えていったのか






《END》





―――――
 神琴視点だと退廃的になる法則?ぽい独白SSですw

時期的には善二郎が生まれてから数年後。神琴は赤ちゃんな善二郎しか知らずに渡米してるので善二郎への印象は薄く、善一郎に想いが寄ってる感じですね。
(というか、その母・紫乃への思慕、か)

23:58:15
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