携帯HPパーツはChip!! 枠あり表示
お絵かき創作雑記
2015年08月17日(Mon)
【短編『鮮血への一撃』 5 サタンの申し子】
短編『鮮血への一撃』 5 サタンの申し子


「神さまなんて信じない。神さまなんていやしない。お祈りなんかナンセンスさ、真の冠(クラウン)、真なる宝は辛酸の最果てにある。瞳に映って我が腕に降り、くちびるに寄せのる甘い甘い愛!!」

 うるせえよ。黙れ。この不神心の嘘つきの不心得者の遊び人野郎。なのになぜだ。こいつの唄うメロディ、それは。それだけは。

(耳に酷く心地良い……)

 享受しよう、目の前にある馳走を食み、華を愛でよう。

 リミッド・バトラーの唱える論は刹那的で排他的だ。弱者と穢れを『なかったこと』にしちまう乱暴な理(ことわり)だ。4世代がクリスチャンという生粋のクリスチャンホーム育ち? 全力で説得されねば到底信じ難い。
 リミッドは。リドは、突然変異で化けて出たとしか思えねえ、

(悪魔(サタン)……)

サタンなのかもしれない。そう考えてしまう。ああ、恋だの劣情だのキスだのの前の問題だ。この『赤』とは、ただの友人にすらなれるハズがない。


「は〜あ。退屈だねぇ、参拝って」

 ある秋の聖日。礼拝後に教会の信徒みなで、郊外の霊園へ赴いた。行きのバスの最前に座ったリミッドは窓の外を眺め、眺めたかと思えば持参品の書物を開き、あくびを繰り返していた。

「クラウド、キミを隣に誘って正解だった。こーんなアクビの連発、ママやダディに見られたら嘆かれちゃうものね」
「本気で不真面目な野郎だ。おまえの何世代も昔の先祖も眠るところへ行くってのに」
「知らないよ。なにが先祖さ、会った覚えもない爺さん婆さん親戚縁者のために、どうして僕が貴重な時間を潰さなくちゃならないの」
「…………」

 素で言ってるのは解る。わかるから余計に腹が湧く。糞ったれ、この贅沢者、じぶんのルーツが眠るエリアが在って行ける、それがどれだけ幸せなことか、まるで無自覚かよ。ルーツどころか親のツラも失ってるおれには、てめえのその無自覚が芯から腹立たしくって敵わねえ。

「おい、リド。どこへ行く。みんなと一緒に回らなきゃ駄目だ」

 降車後の霊園で故人をめいめいに偲ぶ、その集団を離脱してひとり彷徨きだす『赤』の背をおれは追った。

「迷いはしないさ。この墓地は幼児のころから馴染みだもの」

 特におれを振り切るでもなく、リドは大股で先を行く。

「けれども。馴染めない。何年たとうが僕にはサッパリわからない」
「え?」

 リミッドはひとつの墓の側に立ち止まる。止まったのは片足だ。もう片足は即座にーー

(なっ……!!)

ガツリ。リミッドは履いた革靴の踵で墓の上部を蹴った。

「わからないなぁ。これのドコに価値があるの?」

 続けざまに踵が、つま先が墓石を傷めつける。
 おれは彼のあまりの愚行に呆然となっていた。それでも一歩ずつ彼に接近を試み、真横に回り込む。

(…………、これは……!!!)

 回り込んだ瞬間、おれは弾けた。咄嗟に彼の腕を、手首を掴んで引き寄せた。とんでもない愚行だ。リミッドが無情な攻撃を与えていたのは赤の他人の墓石ではなく、

(『バトラー』……!?)

リミッド・バトラー。これはてめえの身内の寝所だった! それを、それをてめえは……!

「痛い、なにするのさ、離してよ。あッはぁ、驚いたの? そう、これは僕のひいひいおばあちゃんのお墓さ。つまらない無機物でしょ? ねえ?」
「てめえ!!」

 この場で殴りたき衝動を堪え、おれは彼を墓場から連れ出した。当て所なく早足で歩いた。

「ちょっ、なあに? なにするのさぁクラウド!」
「黙れ、いいから来い!」
「はぁ? なに怒ってんの、あれはきみのママやダディの墓じゃないのに」

 リミッド・バトラーの唱える論は刹那的で排他的だ。弱者と穢れを『なかったこと』にしちまう乱暴な理(ことわり)だ。

 危険だ。死者を弔う想いも奴は墓石ごと蹴り飛ばす。危険だ。危険だ。危険だ。
 リミッドは。リドは、まさに。突然変異で化けて出たとしか思えねえ、

「悪魔(サタン)だ……!」

サタンだ、てめえは。確信した。この『赤』とは、ただの友人にも知人にもなれやしない!

 ほど離れた森でおれは立ち止まり、やつの腕を解放する。

「んもう、なんなのさあ。手首いたーい。キミがなににイラついてるのかサッパリわかんないよクラウド」
「…………ッ」

 おれは歯根をギリリと軋らせた。この、悪気の欠片もなく悪意を漏らすサタンの申し子に。はたして何を論ずればいいのか、ひらめけず。だが、

(闘わなければならない。『赤』。てめえのなかに巣食うサタンと!!)




《続く》










――――――

リドのファッションの参考資料はティーン雑誌でございます。ハイ、もちろん女の子向けのページです(笑)…

あと。本格的な蔵人とリドの過去編はそういえば初発表なわけですが
「えーと、これ舞台ドコ州とか明確なほうがいいの? いや、そこまでは要らねえか?」などとちょっと思案してます。
(いちおうフロリダ州だったりなのですが……)

22:34:09
コメント(0)
[コメントを書く]

重要なお知らせ

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。



w友達に教えるw
[chip!!新着]
ブログ[編集][作成]
ひまつぶしめにゅ〜 by 凸リアル
Chip!!ブログ作成/ホムペ/メルボ