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お絵かき創作雑記
2015年08月15日(Sat)
【短編『鮮血への一撃』4 アコースティック・クラウド― 1962 ―】
短編『鮮血への一撃』4 アコースティック・クラウド― 1962 ―

―1962年、春―

 平日の夕暮れどき。郊外の一角で所蔵品のギターを爪弾くのが、おれの日課だった。
 昼ひなかはマザーやファミリーの長子たちから神の言葉と学問を賜っていた。その賜りと交わりは嫌いではなかったが、おれは生来が人づきあいを苦にする性であったらしい。ほがらかな昼を過ぎた後のおれは手酷く精神が疲れてた。ゆえに、ひとり、ギターを供に独りの居場所を求めさすらい、

「ここにしよう」

適当な虚空の許に腰を下ろし、さあ、いざ、と弦で辺りの気をも独り色に染めようと試みる。


「あーーっ! いたいた! クラウドーー!!」

 が。その小さな希望すらもたやすく砕かれる。それも、そんじょそこらに生えてもいない強烈な『赤』によって。

「…………。畜生め。またおまえかよ、リド」

 仏頂面で無愛想もいいところな返事を返すが、近づく『赤』は意にも介さず。座したおれの背後に回ってバッグハグをかましてくる。

「うふふ。Hello! ごきげんいかが? 僕のクラウド!」

 いまの一行でアッサリおれの怒髪天を数回突いたよおまえ。Hello? 夕方だバカ。機嫌? すこぶる悪いよ、てめえの登場で。あと『僕の』ってなんなんだ。いつからおれはてめえの所有物になった?

「そしてコレ(ハグ)だ。離れろ!」

 そも、気恥ずかしさにマザーやティーチャ(牧師)、歳近い孤児の兄弟とも滅多に抱きあいやしねえのに。どうしてファミリーでもねえおまえが馴れ馴れしい態度とりやがんだよ。

「リミッド・バトラー。おまえの学校はボンクラ育成工場か? ほぼ毎日。放課後となれば姿を現しやがる」
「うふふふっ」

『赤』、鮮やかな深紅の髪を陽にちらつかせ、リミッドはこともなげに笑顔を返す。着込むチェリーピンクのカーディガン、いくつもの花飾りが付いたシャツが目にイタい。脚に至ってはカラータイツだ。

「その格好でスクールに通ってんのか?」
「男子の制服はダサいんだもん。女の子のは可愛いけど」
「チャラチャラチャラチャラしやがって。おまえスクールがなにする場だと思ってる?」
「おしゃれを披露して友だちを作るところ」
「じゃねえ! 学ぶ場だ! 宿題とかいうミッションもあるんだろ!?」
「心配いらない。ノートは仲良しの子に書き写してもらってる」

 おれが振り払ったときに拳が手首を掠めたらしい。ほんのり赤らいだ肌をリミッドはチロリと出した赤い舌で舐めあげる。

「黒板上の授業も大丈夫。ちょっとの遅れは仲良しの先輩に助けてもらうもの。うふふ……」

 舌先で上唇をもひと舐めし「おいしくキスをするだけさ。みんなイチコロ」大きなネコ目をうっすらと細めた。
 このころのおれは11歳かそこら。リミッドは3つ上の14歳だったろうか。キス。ああ、世界観的におれも挨拶のキスなどとうに経験済みだ。だが、

「感心しねえ態度だな、リド。そういうキスは不特定多数とするものじゃない」

だが、ときめきと劣情を伴い喚びおこすキスの経験はなかった。いや、そもそも恋を患ったことが無い。恋、か。いずれどこかに出逢いの導きがあるのだろうか。思春期手前のガキらしい思考が廻る。

(いまのところおれに最も親しい他人はリドだけだが)

 まさかてめえか赤いバカ? てめえがおれの初恋相手に昇格するのか? いやいやそれは有り得ねえ。そんな未来が運命ならば、さすがのおれも神を微妙に呪う。と思う。

「あッはぁ? あッははぁ。うっふふふふ」

 癪に障るカン高い笑い声をあげ、リミッドは両腕を天に伸ばした。

「うふふ。『不純なキスを不特定多数とするな』? なあに、クラウド。それ、神さまの警告ぅ?」

 その面(おもて)も天を仰ぎ見る。

「僕は信じない。神さまなんていやしない」

 出た。これも癪に障る、こいつの口癖だ。

「僕はね、世界でいちばん愛おしいんだ。僕が。僕は僕だけのものであり、僕は僕を慈しむものを慈しむ」

 腕を胸の前でクロスさせ
「だから神さまなんて信じない。あれは僕に降りたち言ったかい? 『汝を愛している』と。無いじゃないか。聖書はウソの塊の禁書だよ。あれが世界一のベストセラー? あッはぁ。Life is a shadow! 世界は影と欺瞞で満ちている!!」
歌いあげ、笑声をまた譜に載せ、くるりと身を翻して彼は躍り舞う。

「…………っ」

 畜生め。気に喰わないことこの上ないのに、握るギターに力が籠もる。赤いバカの赤い戯れ言のために即興曲を奏でたくなっちまう。

(なぜだ。なぜだ。こんな発禁もののアカペラのために、なぜ?)

 なぜ、おれはーー










《続く》





――――――

過去シーンに入りました。

蔵人が学校に通ってない理由。これまた、ちょっとしたドラマがあります。
入学前に校舎を訪れた際、この特徴的な銀髪に周りの奇異の目線が集中したのです。
神経過敏な蔵人少年は『マザー、すみません。いやだ、通いたくない』と訴えたのでした・・・

23:19:13
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